空手教典撮影秘話 in アラバマ 第五弾 ~緊迫の撮影現場~
まだ穏やかな空気がトラッスビル道場には漂っていた。
さあ、前回の続き、今回でこの連載はラストです。
私は買ってきた幕を貼り、先輩達と道着に着替えた。
まるで選手権大会の時のようなウォーミングアップが始まる。
最高師範も道着に着替えてストレッチを始めた。
カメラマンのO氏は手際よく機材の準備を進めていた。
2人の顔つきも徐々に緊張の度合いが増している。
最高師範は、動画だろうが静止画だろうが映像にはものすごく拘っていた。
だから、技の撮影では気迫が必要で、汗もちゃんと掻いている必要があった。
(団子なんてくわえている場合ではない??)
実際の撮影は、突いた瞬間、蹴った瞬間をO氏がドンピシャのタイミングでシャッターを切る。
撮影会場となったトラッスビルの道場は、試合会場さながらの緊張感に包まれていた。
とは言え、撮影の殆どは最高師範の出番。
我々内弟子は隅で出番を待っている時が多かった。
ただ、いつ出番が来るかわからないし、来たら来たで汗を掻いていないといけないし、ギラギラの表情をしていなければ即NG。
NGで1つ覚えていることがある。
何のシーンかは忘れたが、最高師範に呼ばれて相手役で撮影に挑んだ。
その時は、どことなく和やかなムードでリハーサルを行っていた。
各種テストも行い、さあ、本番。
その時だった。
「マサくん笑はないで!」とO氏(勿論私は笑っていない)。
「Oさん、そりゃないですって!」
そんな心の叫びをO氏は受け取ってくれたようで「あ、ごめんごめん笑っている様に見えた!」!
と、よくよく聞くと何のフォローにもなっていないフォローをしてくれたのだが後の祭り。
敢無くその場で腕立て100回やることになった。
あと、覚えているのは、技を決めた瞬間に私のフトモモが「ピキン」と鳴いた。
幸い大事には至らなかったけど「撮影で肉離れ」なんてシャレにならない。
それだけ気が入る、入らなきゃならないということ。
それ以降も、型や稽古方法やら、内弟子中に撮影は随分行われた。
私もここまで空手に浸かった生活をしていると「何かを残したくなる」気持ちがよくわかる。
いずれタイミングが来たら技術的な映像は撮ってみたい。
さて、第5話にまで膨れてしまった空手教典撮影秘話ですが、グダグダと長くなりましてスミマセン。
当初はサラッと2話で完結の予定でしたが、内弟子時代が懐かしくて回想している内に思わぬ脱線の繰り返しで、危うく迷子になるところでした。
これも「何かを残したい」という思いが少し出たのかもしれません……。
やっぱり、折角やってきた空手だし、色々学ぶ事も出来ました。
「後世に伝える使命」なんて事は思っていません。
私は、私が得た経験や感じた事を生徒に、もしくは誰かに伝えたい。
私の場合それが空手だった、ということです。
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