オーストラリアの学生に空手レッスン《本番前》
会場となる武蔵大学には講習開始予定の1時間前に到着した。
大学時代を近所の日大芸術学部で過ごし、江古田道場が出来て15年が経つ。
この付近は慣れたもの、だが、武蔵大のキャンパスに足を踏み入れたのはこれが初めてだった。
校内は綺麗に整備されていて、所々に緑もあり広々とした印象で「ザ、キャンパス」といった感じだ。
今は綺麗になった日芸江古田キャンパスだが、30年前は狭くて小汚いコンクリ地獄のような印象。
これは「時代」と言うべき代物なのか、ランチ前の校内にはパンやカレー、パスタと言った今をときめくキッチンカーが並んでいる。
それぞれに拘りの雰囲気があって、キッチンカーってだけでそそる。
そんな魅惑な光景を横目に私は会場になっている講堂の入るビルに向かった。
長さ45cm×幅18cm×厚み10cmの腕にはめる黒いミット12個を3個×4個に重ねて、ここは空手らしく?帯でまとめたものを背中に担いでいる姿は異様だっただに違いない。
ビルに入ると直ぐに確か4つのエレベーターが並んでいた。
建物は8階建てで講堂はその最上階にあった。
エレベーターは4つもあった。
にもかかわらず何故大きな荷物を担いでいる私と同じエレベーターに乗り込んでくるのか?
1人の若い男性職員らしき人物だった。
しかも「お前何?」という目で見ているけど、それはこっちの台詞だ。
いや待てよ、向こうが正しいのか、この場合は。
会場を確認して12個のミットを置くきようやく身軽になった私はO氏を探しに出かけた。
留学生達は空手体験に先立ち、生け花と茶道の体験を行っていると聞いていた。
場所は隣の建物の3階だった。
そこは特別外国語を学ぶフロアなのかそれとも今回の留学生用なのか、壁には世界地図、天井にはまるで小運動会さながらの小さな万国旗がU字状に垂れ下がっている。
狭い廊下が見えた。
奥に教室の気配がしたので、前進することにした。
途中、この季節にも関わらずグリーンの半袖Tシャツにラフなズボンを穿いた大柄の外国人に出くわした。
恐らくココの職員だろうか、すれ違いざまに決まった英語の挨拶を互いに済ませると、すかさず向こうは私に何かを言ったのだがよく聞こえなかった。ただ、挨拶ついでの雰囲気だったので、程よい笑顔と会釈で誤魔化した。
廊下の窓越しに教室内を見ることが出来た。
外国の教室の様に小さなテーブルが肘掛けにくっついるタイプの椅子に皆座っていた。
O氏から事前に伺っていた通りに確かに皆真面目そうな学生達に見えた。
ただ、窓が巨大だったこともあり、あまりジロジロ見ているわけには行かずに一先ずその場を後にした。
結局、O氏を見つけることは出来なかった。
廊下を歩いていると「空手の先生ですか?」と職員が私に話しかけてきてくれた。
留学生に歌の講師も務めてらっしゃるO氏の奥様を紹介してくれた。
O氏はどうやら私を探しに行っているそうだった。
ほどなくしてO氏が少し息を切らして戻って来た。
挨拶を済ませると、講堂に戻り会場作りを手伝うことになった。
さあ、会場は整い着替えも済ませた。
すると、先程廊下ですれ違った緑の半袖Tシャツを着た大柄な男性が会場に入って来た。
彼は武蔵大の職員ではなくて、留学生を引率している先生だったのだ。
今一度、今度は丁寧に挨拶を交わした。
職員はもう1人いらした。
軽くストレッチをして生徒を待った。
1人、また1人、生徒はバラバラに講堂に入って来た。
緊張した面持ちもあれば、楽しみそうな笑顔など生徒の表情は様々だった。
人数が増えると少しざわついた。
並べてあるミットへの関心が高そうだった。
つづく
コメントを残す