タクシー拾い
雨の多い7月だった。
土曜の稽古は午前に東京練馬道場、午後は江古田へと移動する。
通常は、自転車で20分程の道のり。
私はどうやら雨男のようで、移動する時に限って空がもたない。
その日も、稽古が終わるまで雨は降っていなかった。
でも、戸締りをして着替えていると、外からシトシト聞こえてくる。
ふふ、やはり私は持っている……。
いくつかある移動手段からタクシーを選んだ。
タクシーは「運試し的」に捉えているところがある。
時間があれば「流し」に賭けてみる。
ただ、思った通りで、こういう時は来ないのよ。
一先ず街道まで出てみたが、見渡す限りタクシーはいない。
なんだか嫌な予感がした。
単に「タクシーが来ないかも」という不安じゃない。
もう少し歩いて料金を節約しようという考えに、このまま歩いたらキツいという不安が交錯して迷うのが嫌だった。
湿気も相まって心も体もグチャグチャだった。
とうとう中間地点まで来てしまった。
ここまで約30分、これから先は一方通行を逆走していく上り坂。
つまりタクシーはもう来ない。
ジメジメダラダラで汗は全身から噴き出てくる。
立ち止まっている私の足に蚊は容赦なく襲ってくる。
時間もあまりないので、途中で買って食べ歩き。
だが、「タンパク質の採れるサンドイッチ」はパサパサで食べずらかった。
心も体も口も胃袋も全てがグチャグチャだった。
逃げ出したいけど逃げ場のない、半ば恐怖にも似た気持ち悪さを感じていた。
ようやく江古田の商店街まで歩いて来ると、いつの間にやら雨は上がっていた。
この時点で1時20分。
1時35分。
無事に江古田道場に到着した。
コンビニに寄った分を省くと、ピッタリ1時間。
歩いたのはこれで2度目。
前回は、何年か前の雪が積もった時だった。
道場に入るなり、エアコンと扇風機をつけて一先ず椅子に腰かけた。
身体中の「疲レーダー」が、体の中心から指先へとジワリジワリと反応しているのがよくわかる。
この感覚は久しぶりだった。
大会用に追い込んだ稽古後の感覚と似ていた。
選手の時を思い出すと、ちょっとは清々しい気分になれた。
稽古は2時から。
そんな干渉に浸っている暇はなかった。
もう道着に着替える時間。
泣きたい気分。
だけど、こういう時は下手に休むととてつもなくダルくなる。
着替えた後もストレッチのためにしゃがもうとしたけどやめといた。
稽古が始まれば平気だった。
生徒が帰り椅子に座る。
とてつもないダルさが体を駆け抜けた。
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