変身
彼は先月暫く稽古に来なくなった。
組手でやられてしまったからだ。
10日程経った後、彼はうつむいて道場へやってきた。
また組手をやった。
まるでエビのように後ろに下がる彼。
何もしないでただやられるだけだった。
彼は泣きそうな顔でこっちに助けを求めてくる。
こう聞いた。
「この休んでいる間の気持ちはどうだった?」
「嫌でした」
「このまま何もしないでただ逃げるだけならまた同じ気持ちになるよ」と。
挑戦してやられるならまだしも何もしないのは逃げているだけ。
「稽古で何が大事か?」彼に聞くと「立ち方です」と即答出来た。
加えて「ここチカラ欲しいとこだよね?」
稽古中どうやってチカラを出すか聞くと「声です」とこれまた即答だった。
「立ち方と声」いつやるべきか聞くと「今です」となったわけです。
彼は先日初めての審査をパスしたばかりの子。
組手も最近始めたばかり。
だからまだまだ組手もそうだし、逃げるという事も良くわからないのだろう。
そんな時期なのだ。
でも、そこは審査パスするだけのことはある。
だから今やるべきことを自分で把握出来ている。
彼は素直な能力も持っていた。
再度同じ相手と組手をすると、まあ別人のような組手振りに驚いた。
膝を曲げ、ちょと広めに構えを取り、大きな声を出して相手に向かっていっていた。
格好良かったし、やってみたらそれなりに強かった。
その日の帰宅。
いつもの何倍もの自信を引っ提げて堂々と家に帰る小さな背中と夕日が重なり格好良く誇らしかった。
見事なまでに変身を遂げた彼の快進撃はまだ続きがある。
それ以降、ボケーとしなくなった。
変身前の彼の印象はキョロキョロソワソワボケー。
道場に一番先に入ってきても、準備完了はいつもビリ。
準備出来てもただボケーっと座っているだけだった。
そんな彼が今では、素早く準備して次から次へとストレッチをやっている。
逆に一年生の初級者ってことを考えたら出来過ぎなほどだ。
こんなにもわかりやすく変身出来るって、さっきも言ったように彼の素直さという能力の高さだ。
なんて素晴らしいのだろう。
まだまだ続く。
今日は稽古中、びっくりするほどに積極的に発言する彼の姿に周りの子達もビックリしていた。
同じクラスの年長の子が「○○君全然フラフラしなくなりました」と稽古後に言って来てくれるほど。
極めつけは回し蹴りの稽古をしている時だった。
一瞬弱い蹴りをした彼に私が「アッ、今のは白帯の時のような蹴りだねー」と言ったところ彼は「僕がフラフラしていた時ですね。」と言ってきたのだ。
彼はまだ一年生。
自分の成長を具体的に理解出来ているって素晴らしいことだと思う。
このまま自分を大切にする癖をつけてくれたら嬉しいな。
一生懸命取り組む姿勢。
成長する姿を間近で見ることが出来る。
こんな素晴らしいことはない。
ありがとう!
では。
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