オーストラリアの学生に空手レッスン《英語の準備》
メールが届いたのは10月中旬。
江古田道場で稽古前にコーヒーを飲んでいる時だった。
まだあの時はアイスコーヒーだったな、そう言えば。
「オーストラリアからの大学生に空手の指導をお願いしたい」との事。
講習は一回きりで、江古田道場近くの武蔵大学の講堂を使用するそうだ。
メールの送り主は江古田でパン屋を経営されているO氏からの突然のご依頼だった。
留学生ともなると指導は英語。
勿論、私はアメリカでの指導経験が長いので、昔は指導出来ていた。
だが、この10年程は外国人相手に稽古はしていない。
と、思ったのだが、そんなことはなかった。
この東京練馬道場が出来た後も5年間くらいは外国人の生徒が在籍していたので、英語は継続して使っていた。
継続的に海外の生徒がスポット的に私の道場を訪れてくれているし。
それでも、空手に興味があり向こうから頼ってきた生徒や、既に私のことを知っていて、しかもワールド大山空手経験者を指導するのとは勝手が違い過ぎる。
向こうは、あくまでも日本留学におけるプログラムの一環で日本文化に触れようとしている大学生なのだ。
まさに完全アウェーだな。
英語へのプレッシャーと、それと真剣に向き合わなかった長い過去への後悔の念は稽古前のコーヒータイムを一気に渋くて苦いものにした。つまんでいたカカオ72%のアーモンドチョコは、まるでカカオ120%を思わせる甘みも喜びも全く感じない冷酷な味わいがした。
ただ、そうは言ってもね、やっぱり「経験が大事」と言うことが身に付いてしまっているこの私。
英語は英語でさておいて、もはや断る選択肢などなかった。
早速妻にスケジュールの確認をしたが問題はなかった。
こうなると、もうやるだけ。
講習のイメージをしてみた。
さて、試しに夜の大人クラスや子供の上級クラスで英語での稽古を試してみることに。
だが(やはりというべきだな)、英単語が出てきやしない。
だからリズムにも乗れないし、生徒は生徒で困惑しているし、おまけに控えている「特別護身講習×発表会」も気になるしで散々な出来だった。
もう、でもやるしかないので、メニューを決めてシュミレーションの繰り返し。
すると徐々に講習のポイントは見えてきた。
それに経験上「波に乗れればどうにかなるさ」とも思えるようになってきた。
「最初が肝心」と言うことで、自己紹介は道場の行き来、車の運転中、稽古の空き時間と暇さえあれば練習した。
次に稽古のテーマは4つに決めた。
1,止まってのパンチ。
2,動くパンチ。
3,キックを加える。
4,組ませてパンチ。
これは面白かったけれど、それぞれの要点に必要な英単語の確認を行うと、今までろくにスペルすらわからぬまま何となく使っている単語ばかりで、中には使い方を間違っていたものなど新たな発見もあり驚いた。
アラバマ時代はそんなことまでは全く考えていなかったけれど、恐らく向こうの生徒には私の英語は伝わっていたとは思う。
それに、やっぱりこっちが先生という立場で黒帯を締めているってなると、例え間違いに気が付いた所でなかなか生徒達は私の英語を正そうとは思えないだろうな。
そんな、英語に関しては悪環境だったと言える。
逆に言うと、そこまで「正確」に拘らなくても意思の疎通や会話はどうにかなると言うことも言える。
いや、でもやっぱり「正確」は大事にすべき。
じゃなきゃ一生懸命勉強しない。
結果的に自信はなくて後悔しているのが答えだ。
まあ、後悔先に立たずだけど、もっと真剣に英語と向き合いたかったなと……。
さておき、講習当日、寒さも少し和らいだ穏やかな朝を迎えた。
つづく
さて、今回講習のお話を頂いたO氏がオーナーを務める江古田にあるパン屋さんVieillヴィエイユの紹介です。
私も試しに伺ってみましたが、とてもユニークで居心地の良い素敵なお店でした。
パンもとても美味しくてお勧めです!
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